数多くのフランス印象派のコレクションで有名なひろしま美術館から、木立のなかを西南にハノーバー庭園を横切りますと、圓鍔勝三作の小鳥を抱え、手をあげ大きな魚にまたがったおかっぱの少女の楽しい銅像が見えてきます。そのすぐ西は豊かな水がゆったり流れる河の堤になります。河畔を南に行きますと、見方によっては「ポンヌフ」に似た相生橋があり、その東南詰めには「赤い鳥」で知られる「肩に鳥をとまらせた鈴木三重吉」と「書物に仲良く腰掛けた少年少女」の銅像があります。そして、その後ろの河を遊覧船が行くのが見えます。さらに河沿いを南下すると平和大通りです。このコースの中心はやはり原爆ドームであり、また慰霊碑も多く、原民樹の文学碑もありますから、ここは、なんといってもまずは「平和に思いをいたすコース」には違いありません。しかし、平和大通りを東にいくと花壇には花がいつもいっぱいで、緑も多く、「瞑想」と題された女性の黒い銅像の東あたりまできて、振り返りますと、「平和というテーマ」とともに、やはり、パリ、美術館、セーヌ、ポンヌフ、シャンゼリゼを思い出します。そして、多くの方には、萩原朔太郎の詩「旅上」が浮かんで来るのではないでしょうか。「ふらんすへ行きたしと思へども/ふらんすはあまりに遠し/せめては新しき背広をきて/きままなる旅にいでてみん/汽車が山道をゆくとき/みづいろの窓によりかかりて/われひとりうれしきことをおもはむ/五月の朝のしののめ/うら若草のもえいづる心まかせに」。
本学には県北部の庄原市に庄原キャンパスがあります。もし、ふらんすに行きたいとお思いになれば、高速バスか列車で庄原に向かいますと、朔太郎の「旅上」の世界を存分に味わえます。また、庄原では県大通りと名付けられた市街から大学に至る道路を夕暮れに通りますと、広島の偉大な詩人木下夕爾の「家々や菜の花色の灯をともし」の光景に出会いほっとします。旅に出た続きに、庄原市の隣、三次市の朱色の巴橋(このあたりは鵜飼いで有名)から上流をみますと、江の川が西城川と馬洗川に分岐しています。ここでは、正岡子規の「若鮎の二手になりて上りけり」を思い出すと胸弾むと思います。さらに、県央を南東に向かって、グルメ街道(豆腐、チーズ、ベーカリー等々)をこえ三原につきますと、瀬戸の島々の夕刻「島々に灯をともしけり春の海」(子規)が浮かんでくることと思います。「かもめの水兵さん」等の童謡で有名な武内俊子は三原の浄念寺が生家で本学の前身広島女専に在学したことがあります。
さて、広島市にもどり本部キャンパスのすぐ北の比治山では、子規が実際に「鶯の口の先なり三萬戸」と歌った歌碑が立っています。また、キャンパスの東、丹那では庄原出身の倉田百三が大文豪ロマン・ロランに激賞された空前のベストセラー「出家とその弟子」を書いたとされ、その文学碑があります。
広島の美しい自然、文化は書き上げていくときりがないほど沢山ありますので、広島で学生生活をしたり、勤務をすると、これらに日常的に接することができますし、海山川がありますので、スポーツは、スキー、カヌー、ゴルフ、ヨット、プレジャーボートにいたるまで県内でたっぷり楽しめます。
さらには、広島はさすがに中核都市で、産業の集積にも厚いものがあります。例えば、工業出荷額で全国一のものは18品目以上あり、広島県に本社を置く従業員数14,000人以上の企業は、福岡県と同数の3社ありますが、19,000人以上の企業は福岡県が2社で、広島県は3社あり、中四国九州17県のうちで最多となっています(日経テレコムから帝国データバンクの財務諸表連結本決算で比較2008年3月決算時の人数)。世界を舞台に活躍する企業も多く、オンリーワン企業、ナンバーワン企業は182社あります(県HP参照)。農水産物で全国1位が5品目、2位2品目、3位1品目、4位~7位に4品目で計12品目が全国的に有数の競争力をもっていることなど、学生諸氏が卒業したときに活躍できる場は、県内産業だけでも豊富です。最近にわかに景気動向が険しくなってきましたが、本学では、キャリアーセンターに専任の教員がおり、非常にととのった『就職活動ガイドブック』を発行していますので、これをしっかり読み、日頃から、よく学び、かつガイドブックが示しているような自己分析から始まって、マナー、事後報告等、心構えと勉学そして準備をしておけば、学生諸氏の未来は明るいと確信しています。
このように、就職といった進路の指導はもとより、本学は高い研究力をもち、それを教育に生かしていますから、学生諸氏の実力が確実に身につくと思います。
本年3月で県立3大学が統合し新大学が開学して4年になります。学生は1年生から4年生まで揃い、新大学の1期生が卒業します。教育界の用語では大学として完成を迎えたといいます。大変嬉しいことに、本学は、輝かしい大学として完成することができました。それは、学生諸氏、教職員が協心、尽瘁の努力をし、謝辞を申し上げる多くの方々のご支援とご鞭撻があったからだと心より感謝しております。
教職員が仕上げてくださった大きな成果の第一は、科学研究費補助金の採択件数が69件で中四国九州沖縄の全21の公立大学でトップ、それも2位の51件に18の差がついての1位になったことです。さらに、科研費以外の外部資金の獲得額は1億8千万円であり、中国地方で2位の大学の5千7百万円の3倍以上となっており、本学の研究力の高さは大いに誇りにできると思います。外部評価の先生方のご意見でも統合前と比較して今日の成果を目覚しいものと言っていただいておりますので、教職員のこの4年の努力を多とすべきと思っています。そして、学生諸氏はこのような研究力の高い教員から教育を受けますので、その点を誇りにしていただいていいと思います。
つぎに、教育ですが、ご承知の方も多いのですが、文部科学省は、優れた教育的取組を、現代GP(グッド・プラクティス、現在は教育GPに改変)として選定し予算をつけてきました。平成18年度は、同じ年度内に2件選定された大学は国公私700ほどある大学(応募は約500校)のなかで、わずかに10校(内国立5、公立1、私立4)でしたが、幸いにして本学は76ある公立大学のうちで唯一2件の採択校となりました。そして、平成19年度にも三原キャンパスの1件が採択されています。このGPは今年からは制度を変えて、「質の高い大学教育推進プログラム(教育GP)」となっていますが、これに、庄原キャンパスのプロジェクトが採択されました。この結果、本学の4学部はすべてGPを獲得するという大きな成果をあげています。さらに昨年度、GP以外に、「社会人の学び直しニーズ対応プログラム」にも三原キャンパスが採択されています。したがいまして、よい教育プログラムに全学部が選定されることで教育の良さが外からも評価されているといえます。
それだけではありません。異文化理解や分析力、表現力、プレゼンテーション力などの学士として備えるべき能力を「学士力」と呼んで、どれだけ学生にそれを身につけさせることができているかが、近年問題にされてきています。この点についていえば、本学は、全学部全学生に卒業論文を必修にしていますから、学士力の養成は相当程度できていると自信を持って言えると思います。卒論を書くには、「課題の設定」「先行研究の調査検討」「仮説設定」「論証あるいは実証」「結論の導出」「結論の検討」「含意の提示」「展望」「文章の仕上げ」「発表」等が必要であり、これらの過程で学士力のほとんどは養成できます。その卒論は19年度(統合前の3大学のもので参考までに上げるもの)をみますと、全学部で665人の学生が617編の論文をまとめ卒業しています(共同執筆が一部あるため論文数は少なくなっています)。卒論を書かない学生と比べて、大きな力を学生はつけているはずです。
こうしたことができますのも、本学の教員の研究力が高いからこそで、きちんとした卒論指導が可能であることを誇りに思っています。その上で、丁寧な教育を行っていこうという各学部の考え方がしっかりとあるから、これが実現できているといえます。学長として、この大学らしい大学にこだわって、高い研究力を自らつけ、それによりよい教育をしていこうという学部の姿勢を大変嬉しく頼もしく思っています。
つぎに、地域貢献ですが、普通あまり言及されませんが、科学研究費を多額獲得していることは、その金額が広島県に来ることですから、県内の経済活性化にも貢献をしていると言えると思っています。そうした、資金面以外には、具体的活動でみますと、本学は、現在、5市町、6金融機関、2公共団体と協定を結んでおり、公開講座やセミナー等の参加者は年間7,000人を越えています。さらに、国際交流協定は6ヵ国10大学と締結し、国際シンポジウムも開催しています(名門大学の西安交通大学やシェフィールド大学、アンダラス大学等)。また、本学の活動についてイギリスの大学連合の調査団が来たりしていますから、国際交流も盛んになってきていると言えます。
本学は、完成年度を迎え、教育、研究、地域貢献、国際交流のいずれにおいても公立大学として一級の大学になっています。私としては、県民、外部からの役員や委員など、ご支援ご鞭撻賜りました多くの方々、県や国の関係者、多くの大学の関係者、公立大学協会等の機関、同窓会、学生およびその関係者、教職員、それに、その他さまざまな形でご協力いただいてきたすべての方々のお蔭であると思っており、お名前は上げませんが、ここで衷心よりお礼申し上げます。
そして、学生、教職員には、この美しい広島にいる幸せを十分に感じ取り、自信と誇りをもって、さらなる発展にともに尽くしていきたいと思います。

